ペットワース・ハウス

2003

イングランドの南部海岸に近い丘陵地に、広大な敷地を有するエグルモント伯爵の館がある。館はペットワース・ハウス、17世紀に再建されたもので、絵画コレクションで有名だ。バン・ダイクや、ゲインズバロ、ボッシュの作品をはじめ、多くの絵画を所蔵している。 特にターナーの初期の作品が多い。まだ、あの絵の具を溶かしたような色彩の絵は少ないが、青年ターナーの描いた絵画は独特な雰囲気を醸し出している。

暗い、吹き抜けホールの床に、１枚の絨毯が敷かれている。 端に1758年と織り込んである古色蒼然とした絨毯。 じっと見ていると、その上を歩いたり、ダンスをしたり、お酒をこぼしたりする人々の姿が、浮かんでくる。 ……ターナーが、神経質そうに、画材を抱えて早足で通りすぎる。 次に描く絵の構図を考えながら、風のように通りすぎる。 この絨毯の上で、いったい幾つの物語が生まれたのだろう。

庭は、春だというのに、寒々としていた。 大きな栗の木々をざわめかせて、風が通りすぎていく。 吹き過ぎたと思うと、また風……。 若葉が必死に枝先にしがみついている。 空は曇天、まるで秋のような大きな風が、ドォーッと何もかもを吹き飛ばすようだ。 広すぎて手入れもあまり行き届かないのか、茫漠とした草原の果てに池が見える。 夥しい数の水鳥が集まって餌を啄ばんでいたが、やがて10羽ずつほどの塊となって、次々と灰色の空へ飛び立っていった。