Sheen Forest Diary
森
2002
庭伝いに広がるSheen Common(シーン地区の共有地)は、ナショナル・トラストが管理する森。 窓辺に座り、四季折々の森を眺めながら、思い出を手繰り寄せたり、これからのことを少し思い煩ったりして暮らしている。
森は都会育ちの私にとって、子供の頃からの憧れだった。 現実の世界に存在するたったひとつの「不思議の国」、多くの物語や童話や詩が連想させる様々な森の姿に魅せられ、夢見ながら大人になった。
森にはキツネやアナグマやリス、カササギや野バト、キツツキが住み、蝶や蛾やアリなどの昆虫がひしめき合い、沼地にはカエルや小魚もいる。毎朝毎夕、犬を散歩させる人々が行きかい、マラソンをする人たちの落ち葉を踏む足音が聞こえてくる。
冬の早朝の森は、特別に美しい。 身を切られるような寒気のなか、薄霧の彼方から太陽が昇ってくる。光は森全体を金色に照らして、葉ごとの氷の粒を水滴に変えていく。
そんな朝、入り口から奥へと曲りくねって続く小道を、凍った落ち葉を踏みながら歩いていく。気持ちよく歩き、そして少し疲れて立ち止まり、やがてまた歩き始める。 森は深く、いつまで歩いても果てることはない。まだほの暗い森の奥を覗きこむ。 行きつくことのできない遠いところ、仄かな光に満たされた神秘の場所にはいったい何があるのだろう……。
